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ケーススタディー: ヤマトホールディングス様

ヤマトホールディングス
広報戦略立案推進機能
シニアマネージャー
阿部和彦氏 =写真㊧

広報戦略立案推進機能
スーパーバイザー
浅野泰子氏

五感ブランディング㊤キャラクター編――ヤマトホールディングス

「クロネコ」「シロネコ」28年ぶりに変更
正月広告に「ネコマーク」、思いを込める

五輪イヤーが幕を開けた。2020年以降の成長もにらみ、企業ブランドの強化に動く企業は多いだろう。ブランド活動では、ブランドと顧客のイメージとを一致させるような取り組みが欠かせない。それだけで企業名を思い起こさせる効果があるのが、キャラクターだ。企業ブランディングで近年重視されている、人間の感覚に訴えた「五感ブランディング」。ヤマトホールディングスは創業100周年を機に、販促物などに活用してきたヤマトグループのキャラクターの「クロネコ」「シロネコ」を刷新した。一方、同社のシンボルである親ネコが子ネコをくわえた「ネコマーク」は、今年の元日に掲出した新聞広告に大きく登場。「クロネコブランド」形成にネコのキャラクターはどんな役割を担っているのだろうか。
ヤマトグループの「クロネコ」「シロネコ」キャラクターが28年ぶりに変わりましたが、その理由から教えてください。

阿部: 皆さまにおなじみの親子の「ネコマーク」は変わりませんが、広告や販促物などに使うヤマトグループのキャラクターの「クロネコ」「シロネコ」を昨年11月に一新しました。28年間ずっと使い続けたヤマトグループのキャラクターを変えるとなると、「どのタイミングで」となりますよね。そういう意味で創業100周年は絶好の機会でした。

時代やお客さまのニーズに合わせてマイナーチェンジをするのは車だけではありません。商品キャラクターであれ、ブランドキャラクターであれ、行われるべきものだと私は思います。

旧キャラクターの「クロネコ」「シロネコ」はテレビCM向けに開発され、切れ長の目、大きな口が特徴でした。「クロネコ」は男性で私たちヤマト、「シロネコ」が女性でお客さまという設定が当時の時代を感じさせますが、皆さまに愛され、私たちにとっても愛着のあるキャラクターでした。

しかしながら、世の中のキャラクターに対する見方が変わってきました。現在、活躍しているキャラクターを見てもユニセックスであったり、立体に展開されていたりすることが多いですね。平面などの2次元だけでなく、最近ではデジタル空間や立体化など3次元での展開を念頭にしたキャラクターが求められています。

ヤマトグループのキャラクターとして「クロネコ」「シロネコ」をこれからもブランドコミュニケーションとして活用していくためにもリニューアルすべきだという結論に至り、そのためのプロジェクトが立ち上がりました。

プロジェクトでの活動はどのくらいになりますか?

阿部: 足掛け5年といっていいでしょうか。長く使われてきたキャラクターをリニューアルするためには、じっくりと時間をかける必要がありました。私もプランナーとしてさまざまな企画やプロデュース業務をしてきたので、売れているものを少しでも変えることがどんなに怖いことなのか、よく分かります。変な言い方になるかもしれませんが、その恐怖心と戦うこともブランディングなのではないかと思います。その上で「変えるべきこと」と「変えないこと」の線引きを明確にしていく、そういった一連の取り組みをブランディングだと私はとらえています。

キャラクターデザインは、Suicaのペンギンを手掛けた坂崎千春さんです。

阿部: 坂崎先生は「キャラクターは作家が育てるのではなくて、世の中の人達と一緒になって育てていきたい」とおっしゃっています。キャラクターのバリエーションや表情、使い方はお客さまとともにつくり上げていこうという姿勢に共感し、ヤマトグループのキャラクターもそうありたいと思いました。

企業ロゴやシンボルマークは、誰が見ても、いつ見ても同じ印象を与えなければなりませんが、キャラクターは必ずしもカチっと枠にはめる必要はないと考えています。表情やポーズをあらかじめ何パターンと決めるのではなく、社内の意見をヒアリングしながらポーズや表情のバリエーションを充実させるなど、社内的には現場が使いやすいキャラクターにしていくことが大切です。

反響はいかがですか?気になるのがネットの反応です。

浅野: ネットに限らず、賛否両論ありました。私個人としては、一企業のキャラクターに対し、何らかの関心をもっていただけたことが重要であると考えています。

ヤマトグループでは今、ツイッターやユーチューブ、インスタグラムでの発信にも力を入れています。SNSで、新キャラクターを活用した親しみやすい情報発信を行ったり、新しい「クロネコ」と「シロネコ」のデザインの違いなどキャラクター自身にフォーカスした投稿を行ったりしています。デジタルコンテンツの中でも新キャラクターをどんどん活躍させていきたいですね。

クロネコヤマトさんといえば、親子のクロネコのシンボルマークが有名です。全国紙の正月広告で「マークは変わりません。でも、クロネコヤマトは変わります。」というコピーが目を引きました。それと、大きく掲げた「ネコマーク」ですが、大胆に扱っていますね。

阿部: 「ネコマーク」の右半分がないということですよね。この原案は私がつくりました。シンボルマークをいじることに慎重であるべきだというのは大前提です。しかし、今回は「ネコマーク」をそのまま使わないで、あえてあのデザインにしました。これには理由があります。

その理由をお話する前に、通常の正月広告について説明したいと思います。注目度が高い全15段の正月広告は、従来ヤマト運輸の制作になります。正月広告は当然、世の中に向けて発信していますが、インナーに向けてモチベーションを上げる役割も担っており、従業員の励みになるような広告づくりを心掛けています。

今年の広告ではボディコピーの一番下に「ヤマトグループ」とあるように、初めてヤマトグループとして行った正月広告になります。私たちは、1月23日に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表しました。このプランは次の時代も豊かな社会の創造に持続的な貢献を果たす企業となることを目的とした経営のグランドデザインです。

ヤマトグループは2019年に創業100周年を迎え、今年はオリンピックイヤーでもあります。持続可能な社会にヤマトもしっかりと貢献していきたい、そのためにはヤマトも変わります。正月広告にはそういった思いを表現しました。ヤマトの正月広告を楽しみにされているお客さまは多く、ヤマトの諸先輩がつくり上げてきたものを壊さずに受け継いでいかなければなりません。ヤマトのDNAは引き継ぎながら、変わっていくという意志を広告に込めたつもりです。

「ネコマーク」については切れているのではなく、「まだ見えていない」のです。未来に向けて歩み続けていくと考えてください。変わらないヤマト、そしてこれから見えてくる新しいヤマトの両面をあの「ネコマーク」に見ていただきたいのです。

「ネコマーク」ですが、2016年には原案が発見されたというニュースが話題になりました。原画はマークのデザインを担当した当時の広報担当者の娘さんによるものでした。

浅野: ヤマトホールディングス100周年記念事業のシニアマネージャーが、社内資料の古い段ボールの中から見つけたと聞いています。「ネコマーク」の原案として知られていたのはネコの周りに2匹の子ネコが描かれたものでしたが、その原画をよく見ると、画用紙の裏に子ネコをくわえた現在の「ネコマーク」に似た絵が描かれていました。

この新発見はニュース性もあり、ネット媒体などで取りあげていただきました。「ネコマーク」秘話はヤマトグループの100周年記念サイトでも発信しています。

ヤマト運輸の『宅急便』の「送る」「受け取る」を便利にするサービス『クロネコメンバーズ』の新しいテレビCMが昨春から放映されています。マツコ・デラックスさんを起用し再配達の依頼など、あえてお客さまから見た『宅急便』の面倒な点を浮かび上がらせ、これまでとは違う仕上がりになっています。

阿部: 商品・サービスのブランド活動でも、変えることが目的になってしまってはいけないと思います。変えることも、変えないことも同じように正解だということはよくあることです。ただ、それまでの『クロネコメンバーズ』のCMはヤマトが創業以来守り続けてきた「お客さま目線」でみた場合、変えざるをえなかったということなのです。

1976年に誕生した『宅急便』はお客さまの生活を支える社会的インフラの一つになっています。ヤマトは、その責任を果たすことが使命であり、最も大切なことだと考えています。したがって、世の中を便利にしていく、暮らしやすくしていくことを模索していくことこそが、ヤマトのブランディングになるわけです。

そして、ヤマトのブランドをつくっているのは広告でもなければ、テレビCMでもありません。それは現場のセールスドライバー(SD)がつくっています。正確に言うと、SDがお客さまから荷物をお預かりしてお届けするなかで、生まれるコミュニケーションから形成されていくのです。毎日お客さまと接しているSDを通じて蓄積されていくものが、「ヤマトブランド」だと私は思うのです。

お客さまのもとに荷物を運ぶトラックには「ネコマーク」があります。キャラクターというものは、現場をサポートし、お客さまとのコミュニケーションをさらに深めてくれる、私たちにとってかけがえのない存在なのです。

<ヤマトホールディングス> 設立:1919年11月29日
ヤマトグループでは、普段からニュースリリースを200社以上に配信しているという。「クロネコ」「シロネコ」のリニューアルの話題は、全国紙をはじめ多くのメディアで取りあげられた。「今回も、とりわけ露出のために特段行ったことはありませんが、ペット人気にもあやかり、メディアの受けがとてもよかったですね」と阿部さんは話す。
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