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ケーススタディー: ドワンゴ様


株式会社ドワンゴ
niconico事業本部メディア&コミュニケーション部
ニュースコンテンツ担当部長
高橋薫氏

ドワンゴ「ニコニコ美術館」の無観客配信

休館中の美術館・博物館から生放送
圧倒的な情報量で新たな“体験”提供

コロナ禍で生活者のメディア接触が変化している。テレビ以上に存在感を高めているのがネット動画だ。今春、美術館・博物館の臨時休館が続くなか、ドワンゴが運営する動画サービス『niconico』の番組「ニコニコ美術館」は、ネット展示配信を無償で実施し「コロナ休館の救世主」と呼ばれた。無観客となった会場からの生放送で繰り広げられる案内役の学芸員や専門家と視聴者のリアルタイムなコミュニケーションが魅力だが、「SNSとは違い圧倒的な情報量を与えることで、リアルとは違う“体験”が生まれる」と担当者は明かす。現在多くの企業で直面するコロナ禍におけるオンライン発信やコンテンツづくりについて「新しい美術館・博物館体験」を通して考えてみたい。
「ニコニコ美術館」による3月10日の江戸東京博物館の「江戸ものづくり列伝―ニッポンの美は職人の技と心に宿る―」展の生放送は大きな反響を呼びました。コロナ禍で休館中の美術館・博物館に呼びかけて実現したものですが、取り組みを始めたきっかけと狙いから教えてください。

休館を決めた美術館・博物館では、展示は維持されていながらも、お客様に見ていただく機会がないという状況となっていました。とはいえ、オンライン上でなら安心して展示を楽しめるのではないかと考え企画しました。

以前より「ニコニコ美術館」では全国の展覧会を「ニコニコ生放送」で中継させていただいており、その時に大変お世話になった方々に対し、力になりたいという思いもこの企画を始めるきっかけとなっています。問い合わせにつきましては、80件ほどいただきました。

<ニコニコ美術館とは>2012年にスタートし、16年以降は不定期に放送されている番組で、全国の美術館や博物館、ギャラリーから生中継を行っている。展示室を巡りながら、美術館・博物館のキュレーターやその分野の専門家たちが生で解説を行い、リアルタイムの鑑賞者たちがその動画にコメントを付けられる点が最大の特徴となっている。
❶―江戸時代に活躍した「職人」をテーマに、建具や調度品などの工芸品を多数展示した特別展。2月8日から4月5日まで開催する予定だったが、2月29日に江戸東京博物館が休館したのに併せ、「ニコニコ美術館」で3月10日に生中継。視聴者数は、生中継後のタイムシフト視聴を含め、延べ約32,000人に上った。

3月8、14日には東京交響楽団の無観客生中継を配信されました。

東京交響楽団の理事でもある弊社社長の夏野(剛氏)から「無観客公演を検討しているのでニコニコでの配信はどうだろうか」という話を持ち掛けられたのが最初のきっかけになります。Twitterで大きな話題を生んだこともあり、クラッシックに慣れ親しんだ方にも、そうでない方にも多数視聴いただき、コメントも盛況でした。

❷―東京交響楽団が開催した無観客コンサートを3月8・14日の両日、「ニコニコ生放送」で生中継を行い、延べ20万人以上の視聴者に鑑賞され、新型コロナウイルス感染拡大により次々と演奏会が中止されるなか、新たなオーケストラ鑑賞のカタチとしても注目を集めた。

「ニコニコ美術館」の生中継における高橋さんの役割について教えてください。また、配信に際して気を配っていることは何ですか?

基本的には「ニコニコ美術館」全体の運営をプロデュースしていますが、コロナ禍にあって、数多くの美術館から問い合わせをいただき、少しでも多くご依頼にお応えしたいということで、私自身ディレクターを担当したものもあります。

「ニコニコ美術館」での展覧会の紹介では、番組内に「複数の軸」が入るように心がけています。視聴者に思わぬ気づきを持ってもらいたいからです。例えば、京都市京セラ美術館から開館記念展を配信した際は、その時期の江戸との対比を念頭に置いて、京都の美術を彩った名品を紹介しました。

再開された江戸博の特別展「奇才ー江戸絵画の冒険者たちー」を「ニコニコ美術館」で視聴した後に実際に博物館で展示を見ました。「ニコニコ美術館」は、リアルな鑑賞とはまた違う展示会の新しい魅力を引き出していると思いました。特に、動画のカメラの寄りや引き、案内役と解説者の掛け合いは、例えが適当ではないかもしれませんが、プロレスのような「スリリングな進行」だと感じました。

通常の映像媒体の演出と違って、出演者を映す箇所を極力少なくしています。あくまで展覧会と作品が主役だからです。これが結果的に出演者の「撮影される」意識や負担を軽くしていて、結果、最初は緊張していたとしても、10分もすると自然な言葉での応酬が行われるようになってきます。 ここに視聴者のコメントが重なることで、「スリリングな進行」が生まれてくるのだと思います。

こうして生まれた場には複数の他者の視点というレイヤーが重なり合います。それが(視覚・聴覚に)圧倒的な情報量を与えることで、リアルの鑑賞とはまた違った「体験」が生まれます。この情報量を常に意識して制作しています。

「ニコニコ美術館」に触れた人々は浴びた情報を処理しようと現地に足を運び、そして現地では身体からもたらされる情報がさらに積み重なっていきます。この相互作用が鑑賞者の体験をより豊かなものにしているのではないでしょうか。

❸―江戸時代に“奇才”と呼ばれた35人の絵師たちの作品が集った特別展。4月25日を予定していた開幕が延期となったが、6月2日から21日まで開催。「ニコニコ美術館」は6月11日、美術ライター・エディターの橋本麻里さんを聞き手に同展監修者の安村敏信さんの解説付きで紹介。
自粛期間中に休館した美術館・博物館からの生放送は3月10日から3月30日の間で7カ所に上り、「コロナ休館の救世主」といわれました。美術ファンはもとより、メディアからも多くの反響がありましたね。

自粛期間中は外出が難しい状況でしたので、オンラインを通して展覧会の内部をご覧いただけること、またコメントでコミュニケーションできるということで非常に好評でした。これまで『ニコニコ動画』に馴染みがなかった方を中心に視聴者数も増えました。博物館や美術館側とお客様をうまく結びつけられたのではと感じています。

コロナという非常時に広がったオンライン鑑賞として、「リモート参拝」という新しいスタイルも生まれました。「ニコニコ美術館」でも「東大寺の仏教美術と伽藍を巡る生放送」を配信し評判になりました。

2017年 に「テクノ法要」を生放送して以来、ニコニコ超会議のたびに仏教企画を実施してきました。今回、コロナ禍で超会議のリアル開催が中止になり、オンライン企画に方向転換した際に「国難→鎮護国家→大仏さま」という連想から東大寺さんに大仏さまの中継を提案して実現しました。ちなみに、「リモート参拝」という言葉は視聴者の方のコメントから生まれたものです。

❹―東大寺の盧舎那仏像(奈良の大仏)や大仏殿(金堂)をはじめ、普段見ることができない仏像などを東大寺庶務執事の森本公穣さんと美術ライター・エディターの橋本麻里さんによる解説付きで6月20日に生中継。
❺―福井市の照恩寺で行われる法要と“テクノ音楽”を融合させたイベント「テクノ法要」を2017年10月25日に生中継。元DJという異色の経歴を持つ住職が、仏像にプロジェクションマッピングを施し、テクノ音楽をバックにテクノボイスにアレンジされた読経を行った。ニコニコ超会議では2018年と2019年、ニコニコネット超会議では2020年に実施。

これまでの「ニコニコ美術館」の配信で最も印象的な現場はどちらでしたか?

東洋文庫ミュージアムからの中継です。もちろん名前は知っていたものの、おそらくコロナ禍と「ニコニコ美術館」がなければ、訪れなかったであろう場所でした。しかし、自分の好きがつまった場所であったことを知り感動するとともに、不明を恥じました。地味な配信かもしれませんが、東洋文庫ミュージアムの蓄積された知と研究の場を多くの視聴者に知ってもらえたことがとても嬉しかったですね。「休館中」シリーズでも屈指の面白さになっています。

❻―国宝5点、重要文化財7点を含む約100万冊の蔵書を誇る、世界5大東洋学研究図書館の一つ。同館休館中の3月30日に企画展「大清帝国展」を解説付きで生中継。

コロナ禍で企業の広報・PRは大きく変わり、担当者は、オンライン時代の発信やコンテンツづくりという問題に直面しています。「ニコニコ美術館」は新しい美術館・博物館体験を提供していますが、企業の発信は今後どうあるべきか、お聞かせください。

SNSなどの発達で伝わりやすく、ひと目で分からせる重要度がより強く叫ばれます。しかし「ニコニコ美術館」では逆のアプローチを取っていて、前述の通り、それが人々に行動を促しているのではないかと考えています。文量などの量的制約が少ないこともデジタルの利点です。受け手を信じ、この利点をあらためて活用していくのも成熟し始めたネットでのPRの一つの方法ではないかと思います。

<ドワンゴ> 設立:1997年8月6日
感染症対策を取りながら、再開に漕ぎつけた美術館・博物館だが、これまでのような大規模集客が見込めないなか、文化施設の発信はどうなっていくのだろうか。「美術館・博物館、寺社のような『場』は苦しい時期が続くと思います」と高橋さん。しかし、コロナ禍にあって「このような『場』の希少度や強度は、むしろ増していくのでは」とも指摘する。高橋さんは「ニコニコ美術館」が「そうした『場』の継続の一助になったり、お役に立てたらと考えています」と話す。
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