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ケーススタディー: いすゞ自動車様


いすゞ自動車販売
営業企画部 部長
三谷公克氏

五感ブランディング㊥CMソング編――いすゞ自動車

いすゞのブランド構築に音楽のチカラ
商品CMから企業を象徴する曲に

知らぬ間にCMソングを口ずさんだり、BGMが気になってCMを見てしまったりした経験が誰しもあるのではないか。商品や企業のメッセージを聞き覚えのある音やメロディと一緒に届けることで、より一層のブランディング効果が期待できる。「いつまでも いつまでも 走れ走れいすゞのトラック~」。いすゞ自動車のCMソングである。最近では3人の歌い手が次々と起用され、それぞれ個性豊かに歌い上げている。「トラックドライバーの応援歌」の同曲は、トラックに馴染みのない若者の間にも認知が広がってきた。「五感ブランディング」の第2回目は「企業×音楽」のチカラを探った。
つい口ずさんでしまう「いすゞのトラック」のCM曲はカラオケにも入っていますし、いすゞさんの本社や販売会社の電話の保留音にもなっています。「いすゞのトラック」は社歌のような存在だとお聞きします。曲の成り立ちから教えてください。

社歌は別にあるのですが、サビの「おお いすゞ おお いすゞ 世界のいすゞ」しか歌えません(笑)。

2003年に、いすゞは排ガス規制にいち早く対応した小型トラック『エルフ』を開発しました。いすゞとしては、このトラックに大きな自信を持っていたので、テレビCMをつくり世の中にアピールしようと考えました。いすゞといえば、乗用車『ジェミニ』の遊び心のあるCMを思い出す人は多いと思います。しかし、いすゞは1990年代以降、乗用車事業の撤退もあってテレビCMから遠ざかっていた時期が続いていました。

広告代理店さんにクリエイティブを依頼しましたが、映像となると先立つものがないと難しいと思いました。限られた広告宣伝費の中で何とかしないといけなかったので、「音だけでも印象に残るようなものをつくってください」と、ほぼお任せでお願いして上がってきたのが、30秒の尺のあの曲(オリジナル版)でした。驚きました。一度聴けば耳に残る、とても完成度の高い曲でしたので。

以後、この曲をCMの軸に据えることになります。

正直なところ、CMで毎回違う演出をするとどうしてもお金がかかります。せっかくいい曲ができたので使い続けたい、CMも続けたいとなると、自然と音楽を前面に出すCMづくりになりました。

2004年にCMがスタートし、歌手のKAZCOさんの叙情のこもった歌声と国内のロケ地をバックに、オリジナル版を流しました。06年の『エルフ』のフルモデルチェンジの際、その登場感を演出するためにつくられたのがオーケストラバージョンです。

その後、私は宣伝担当を離れましたが、世界で活躍するいすゞを紹介した「世界と結ぶシリーズ」でも曲が使われました。同シリーズは北米やアジアなど海外を舞台にしたブランディング広告で、2013年にその一環でコーラスバージョンを流したこともあります。

曲の認知度を上げるために、いろいろご苦労があったようですね。

CDを販売しているわけでもなく、企業名が歌詞にばっちり入っているので、世間一般にはなかなか受け入れらず、ハードルが高かったですね。

いすゞの公式サイトで音源を再生できるようにしたり、販促用のCDも作りいろいろ回ったりしました。モーターショーでCDを配布したこともありましたね。業務用カラオケ機器の販売会社さんに曲を入れてもらえるよう何度もお願いに行きました。1社で採用されると別の販売会社さんにもすぐ入れてもらえ、配信先が広がっていきました。「CDが欲しい」とお客様相談センターにご連絡いただいたお客様にCDをお送りしたこともありました。

曲をつくるにせよ、CMを続けるにせよ、予算がなかったものですから、私としては一生懸命、外堀を埋めていくことに専念しました。曲が認知されていけば、テレビCMを続けざるを得ないだろうという作戦でした。そのうちに、お客様相談センターにも少しずつ「いいよね!」という声が届き始めました。

社内へのフィードバックは大事です。お客様の声を集めて毎月、全社メールで送りました。タイに赴任している同期から「お前のところでやっているのか、すごいよ」というメールが返ってきて、うれしかったですね。CMが世の中でこんなふうに評価されているというのを社内に周知させる、それがみんなの励みになるのです。

2016年に始まった俳優の小日向文世さんが「夏のサンタ」として出演された『エルフ』のCMは、タレントさんの起用が41年ぶりと話題になりました。ただ、曲としてはCMの最後に「いすゞのトラック~」と口ずさむ程度でした。

演出上、CMの最後に口ずさむだけになってしまったのはやむを得なかったと思います。結果的に、「いつまでも いつまでも~」と続くあの曲が一部しか聞こえてこなくなったのは、少し寂しく、もったいない感じがしたことも確かです。

私は宣伝の後、営業として販売会社さんと一緒に仕事をしていましたが、彼らとの飲みの席でよく、あの曲をみんなで歌って締めていましたね。曲が大事にされているのが身にしみて分かりました。「CMで最近曲があまり流れなくなった」「もっと曲を使うべきだよね」という会話をよくしたのを覚えています。

娘からはこんなことを言われました。「お父さんの会社のCMが流れても本編に気づかない」と言うのですね。最後に曲が聞こえて、はじめていすゞのCMだと分かるのだそうです。

三谷さんは宣伝に復帰されるとボーカリストがしっかり曲を歌うという形に戻しました。その第1弾の、いすゞさんと人気ロックバンド「マキシマム ザ ホルモン」のナヲさんとの組み合わせには驚きました。

私は復帰後、曲を再び前面に出すクリエイティブに変えるという方針を打ち出しました。サンタクロースに扮した小日向さんと息子さんがトラックにクリスマスプレゼントを積み上げたり、トラックを運転したりするシーンのバックに、「いすゞのトラック」が流れるというもので、その曲をマキシマム ザ ホルモンのナヲさんに歌ってもらいました。

広告代理店さんから、ナヲさんがライブで「いすゞのトラック」をよく歌っていると聞きました。私はマキシマム ザ ホルモンの存在すら知りませんでしたが、営業の若いスタッフに聞いてみると結構みんな知っているのですね。トラックのユーザー層とはかけ離れているけれど、現場が喜んでくれればいいかと、そんな感じで始まったのです。

ナヲさんに続いて、アイドルグループ「BiSH」のボーカルのアイナ・ジ・エンドさん、そして最近は俳優としても活躍する大友康平さんと続きました。

調子に乗ってしまいました(笑)。アイナさんも代理店さんからの提案で、私のようなおじさんには「?」という感じでした。CMは新型『エルフ』の告知で、プリクラッシュブレーキをはじめとする多くの先進安全装置を標準装備しており、CMではそういった「先進性」をアピールしたいと考えました。それでアレンジをテンポよくEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)調にしました。

大友さんに至っては、言わずと知れたHOUND DOGのボーカルです。HOUND DOGの名曲「ff(フォルティシモ)」ばりの力強い歌声をバックに、『エルフ』の先進機能を訴求する「つながる×みつめるトラック」篇が昨年7月にスタートしました。今の若い方には大友さんを知らない方もいるようですが、大友さんのものまねをする「りんごちゃん」の人気にもあやかって、大友さんを介してCMが若者層にも知られるようになりました。

曲のアレンジについては、初めに曲を作ってくれた音楽事務所さんに一貫してお願いしています。歌い手さんの力量や個性はもちろんですが、アレンジの安定感、上手さには全幅の信頼を置いています。

お話を伺っていると、いすゞさんのCMはインナーに向けてのメッセージという部分が大きいことが分かりました。

いすゞという企業がBtoBの要素が強いので、お客さまに直接訴えかけるというよりも、商品をお客様に説明する営業担当者のモチベーションを高めるためにCMを作っているというところがあります。

世の中への発信が半分、残りの半分は「仲間のため」というところがありますね。営業では、CMがお客さんとの会話の糸口になることがよくあるのですよ。

商品訴求のための曲としてスタートした「いすゞのトラック」がいつしか、いすゞさんを象徴するものとなり、社内はもちろん、一般の人に愛されるまでに成長しました。オリジナル版のKAZCOさんが歌うバージョンは現在、企業広告「南極篇」に使用されています。最後にCMの今後の展開などお聞かせください。
CM曲は、いすゞの公式ページから視聴できる
いすゞと南極…1956年の南極観測隊の第1次隊から参加しているいすゞ。過酷な現場に、人と技術とトラックが貢献していることを「南極篇」として、テレビCMだけでなく新聞広告も使って発信している。

「南極篇」は企業ブランドの訴求で、安定感のあるKAZCOさんのバージョンを使っています。商品訴求では、これまで3人が曲を歌い上げるバージョンが、おかげさまでご支持をいただきました。

今後も話題性のあるCMづくりにチャレンジしていきたいですね。格好をつけるわけではありませんが、簡単に次をつくってしまったらいけないと思っています。皆様のご期待にお応えするためにも悩み抜く覚悟です。それにしても曲が大きく育ちました。これまでやってこれたのは、この曲のおかげだということだけは言えますね。

<いすゞ自動車> 創立:1937年4月
宣伝担当として三谷さんが「かなわない」というのが、1985年にデビューした2代目『ジェミニ』のCM。「街の遊撃手」というキャッチコピーで、パリを舞台に車が華麗に舞い踊るシーンが有名だ。「今でもネットで『いすゞ CM』で検索すると、必ず出てくるのがこの『ジェミニ』のCMです」と三谷さん。SNSでは『エルフ』のCMも新しい歌い手が登場するたびに反響を呼び、CMへの注目度が高まっている。
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