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ケーススタディー: 大塚製薬様


大塚製薬
ニュートラシューティカルズ事業部
宣伝部 課長
上野隆信氏

大塚製薬の新CM「ポカリNEO合唱」が話題、「リモート制作でこんな映像が…」

中高生98人が自撮り、合唱でつなぐ
ロングセラーブランド「常にチャレンジ」

コロナ禍で様変わりした日常をいち早く描いたのが、大塚製薬が4月にリリースした『ポカリスエット』の新CM「ポカリNEO合唱」シリーズ。集まっての撮影ができない状況で、中高生が自撮りした映像をつないで1つの「合唱」に仕立てた。ここ5年、『ポカリスエット』がターゲットに据えるのは中高生。『ポカリスエット』は今年、発売から40周年を迎えたが、周年記念のキャンペーンは特にないという。それは、若者と同じように過去ではなく、「今を生きる」ブランドだからでもある。コロナ禍で「できない今」ではなく、「今できること」を追い求める。「渇きを力に変えてゆく。」というメッセージが共感を呼び起こす。
現役高校生モデルの汐谷友希さんを新ヒロインに迎え、出演者が自撮りした映像を1つにした「ポカリNEO合唱」がこの春、注目を集めました。本来は自撮りではなく、別のプランがあったとお聞きしました。

2016年から「ダンス」を軸にCMを展開してきましたが、2020年は「合唱」をテーマにし、約500人が一同に集まって歌うという企画を進めていました。新型コロナの影響を受け、撮影などの手法を急遽変更したのが2月下旬でした。

2015年以降、ブランドコンセプトとして前面に出しているのが「生命力」「躍動感」で、そこは変えたくはありませんでした。そんな時、自撮りのアイデアが出てきました。自撮りをつないで1つに編集するという企画力でこの難局を突破しようと思ったのです。

コピーの「渇きを力に変えてゆく。」も、コロナに合わせて作られたと思う方が多いですが、撮影手法を変更する以前に既に決まっていました。『ポカリスエット』が元々持っているものを表現してもらったコピーとはいえ、コロナ禍の状況にピタッとハマりました。

プランの急遽変更、しかもコロナ禍での作業でご苦労もあったのでは?

制作の際には、出演者が98人にもなるので一人一人に口頭で説明するわけにもいかず、監督が歌い方や撮影時の表現方法などの演出プランをまとめた「お手本動画」を作ってくれました。これを参考に、出演者には日本を元気にさせるようなパワー溢れる「合唱」を表現してもらいました。

「ポカリNEO合唱」は多くのメディアで取りあげられ、SNSでも話題になりました。

ここまで反響があるとは全く予想できませんでした。それは、これだけの大規模なCMをリモートで制作できたということ、しかも、どこよりも早く実現したことで皆さんの目に留まったからだと思います。スマホの自撮りでブランドのコンセプトである「生命力」「躍動感」が果たして表現できるのか、不安しかありませんでしたが、仮編集した映像を初めて見た時に、そのパワーに驚くと同時に安心したのを今もはっきりと覚えています。

編集作業にも立ち会うことなく、リモートで行いました。初めは戸惑いもありましたが、回を重ねていくうちにブラッシュアップされ、スムーズに進行できました。メディアの取材もすべてリモートで行われ、その数も私が知る限り過去最高だったと思います。

第2弾の夏CMが7月24日から放送されています。春とは違い、撮影は出演者が集まって屋外で行われました。ソーシャルディスタンスを生かした演出で、碁盤の目状のステージの上から36人が思い思いの「合唱」を披露しています。

今テレビのワイドショーやバラエティー番組を見ても分割画面が主流となってしまいました。春は画面を分割したCMになりましたが、もう少しだけ一歩前に踏み出したい、そんな思いから、出演者が同じステージに立つ撮影にチャレンジしました。

感染防止には細心の注意を払い、出演者36人をはじめスタッフ誰一人として、コロナにかかることなく無事終えることができました。放送後も思っていた以上に好意的な受け止めが多かったですね。

「ポカリNEO合唱」のウェブムービー「ボクらの夏 バックストーリー」を見ると、撮影後、皆さん感動された様子でした。現場でどうお感じになりましたか?

撮影後にやりきったという達成感と撮影が終わってしまうという名残惜しさが混じった感情から、キャスト・スタッフともに思わず涙があふれ出しました。いろんな現場を見てきましたが、こういう現場は、そうはありません。

学生にとってもみんなで作り上げた運動会や学祭のような感覚だったのかもしれません。その撮影現場の感動がCMにも反映され、若者だけでなく大人にも伝わり、全体的にポジティブな反応につながっているのだと思います。

『ポカリスエット』のCMでは、かつては「イオン飲料」「水分補給」といった商品機能を訴求していたように思いますが、いつごろから現在の中高生の青春をイメージする内容に変わったのですか?

実は『ポカリスエット』は今年、発売40周年を迎えました。特別何もしていませんが……。それはともかく、1980年の発売当初のCMを覚えているでしょうか。代表的なものに糸井重里さんと森高千里さんが出演した『ポカリスエット』の機能を盛り込んだ掛け合いがユニークな内容のCMがあります。これにより一気に『ポカリスエット』の認知度が上がりました。そして次に多くの方が『ポカリスエット』のCMとしてイメージされる美少女路線へと続いていきます。しかし、競合商品の台頭もあり、ポカリスエットの優位性が段々と失われていったのです。

2010年の『ポカリスエット』30周年の時に、再び商品の機能を前面に出したCMを始めました。その結果、若者にとって『ポカリスエット』は、熱中症の時や風邪を引いた時に飲むものというイメージが定着していったという側面もありました。『ポカリスエット』を飲むシーンはそういった特別な時ではなく、部活が終わった後など普段の生活の中の方が圧倒的に多いのにも関わらずです。今の40代なら共感していただけると思いますが、かつては、あの『ポカリスエット』のスクイズボトルを学校に持っていくことが格好よかった時代があったのです。

『ポカリスエット』が中高生にとってこのまま、「非常時に飲む特別な飲料」という存在であるのなら、ブランドとして今後成長していくのが難しいのではないかと考えました。再び中高生が身近に感じて憧れるブランドにしたいと、2015年に中条あやみさんを起用したCMからターゲットを中高生に明確にシフトしました。

2015年からは「ポカリ、のまなきゃ。」シリーズもスタートしました。

ブランドターゲットを中高生に絞ったと言いましたが、お父さん、お母さん世代をないがしろにするつもりはありません。2015年から「ポカリ、のまなきゃ。」シリーズを同時に放送しています。

「ポカリ、のまなきゃ。」シリーズでは、大人世代が懐かしいという曲と合わせて、吉田羊さんと鈴木梨央さんが親子役で出演され、飲用シーンの提案や少しだけ機能を伝えるCMにしています。ずっと代わらずお二人で出演いただいているので、娘の成長を見守るような気持ちでご覧になっている方が多いと聞きます。

そもそも現在、1つのCMで万人にブランドメッセージが伝わるということは、ほぼ不可能だと思います。テレビの影響力もかつてほど無くなり、メディアのバイイングについてもターゲットに合わせた選択とバランスが求められる時代になりました。

『ポカリスエット』というロングセラーブランドの宣伝・PRにおいて、どんな点が難しいとお考えですか?

『ポカリスエット』だけでなく、『オロナミンC』や『カロリーメイト』も健康をテーマに生まれたロングセラー商品です。人間の身体が変わらない限り、大きく製品設計を変えることはありません。ですが、時代は変わっていきます。その時代に合ったコミュニケ―ションが必要となってくるのです。

中高生に「自分たちのブランド」と思ってもらえるなら、『ポカリスエット』はいつまでも若々しく、時代が変わってもブランドとしての可能性が広がると考えています。

2016年から「ダンス」をテーマにし、2018年のCM「ポカリガチダンスFES」篇では、テレビCMで同時に踊った最多人数としてギネス世界記録を達成し、注目を集めました。

投稿してもらったダンス動画をテレビCMに採用する企画も盛り上がりましたが、CMやウェブを介した間接体験とは違い、参加型のイベントにすることでブランドに直接深く触れることができるという利点があります。

2018年6月に行った「ポカリガチダンスFES」は、記録だけを狙ったものではありません。仲間と一緒に踊る喜びを感じたいと、4348人の中高生たちが全国各地から会場となった東京・立川市の国営昭和記念公園に集まってくれました。当日は梅雨の真っ只中でしたが、その日だけ奇跡的に晴天になりました。

「ダンス」では中高生の力を最大限引き出してもらうためにあえて難しい振り付けにし、本気のダンスを通じて「青春」「挑戦」「応援」のメッセージを伝えてきました。しかしそのダンスを“完コピ”するにはハードルが高く、そもそも踊ることが苦手な人もいます。皆が皆できるものではないということもあり、次のステップとして誰でもできる「合唱」にしたのです。「ポカリNEO合唱」は歌詞こそあれ、歌い方やそのほかの表現はすべて自由です。

「40周年」では何もされないというお話がありました。それはどうしてでしょうか?

「周年」というのは、ある意味、身内の話なのです。『ポカリスエット』が40年前に生まれたブランドといっても今の中高生にしてみれば、あまり関係がないことのように思います。中高生に「自分たちのブランド」だと思ってもらえるように、やはり大事なのは「今」ではないでしょうか。

最後に『ポカリスエット』のブランドコミュニケ―ションの今後の展開や意気込みをお聞かせください。

今ようやく、「中高生にとって身近なブランド」というイメージができつつあると感じています。ターゲットユーザーの中高生は6年という幅があり、しかも毎年入れ替わるという難しさがあります。そういう意味ではゴールが見えません(笑)。とはいえ、ブランドの鮮度を保つために、アンテナを高く張り、常に新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。

<大塚製薬株式会社> 設立:1964年8月10日
「クリエイターの方とは、膝を突き合わせて話をするようにしています」と上野さん。以前は広告代理店の営業担当を通じてやりとりしていたが、「まずクリエイターさんにブランドを好きになってもらうことが大切」と考え、コミュニケーション方法を変えた。「大塚製薬は徳島発祥の会社です。コロナ禍では難しいですが、徳島にも足を運んでもらって理解を深めてもらっています」と言う。コロナ禍でもクリエイターとの関係は“密”が持論だ。
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